ディア・ドクター

人の心のヒダをなんの説明もなく、なんと繊細に描くのか。「ゆれる」の西川美和監督による久々の長編は、無医村で文字通り医者を演じていた中年男性の失踪から始まる。
人はただ信ずるものが欲しい。人によってそれは宗教や学問や愛であるかもしれない。この村ではたったひとりの医者だった。高齢化の進んだ世界でニセ医者は、都会に離れて暮らす肉親を超えて心のよりどころとなっていた。たとえそれが真実でないにしても。老人たちにとって重要なのは命を救うことではなく、最後まで命を見守ってくれることだった。
だまされていたと知ったときの村人や研修医の反応はかばうわけでも責めるわけでもなく、現代の無関心さが現れているように見える。いや何も言わないだけで、心の中では許していた。あの人の微笑みでそれが分かる。一瞬にして胸がしめつけらた。

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